ideal

もの研を支える理念

もの研の趣旨と活動内容については、concept: もの研究会のコンセプト で説明しましたが、その活動の基本となっている学問的 - 理論的な理念を、2つの概念(もののもの性とものの多元性)に分けて、説明したいと思います。

■ もののもの性

いわゆる「もの」と呼ばれるものは、我々の身の回りにあふれています。もとから自然にあるものから、人間の手によって生まれたもの、果ては、あるのかないのかよく分からないものまで。

しかし、それらのものには、直ちに名前と意味が与えられ、ある役割・機能に制限された「特殊なもの」とされます。逆に、そうした意味などが付与されないものは、「単なるもの」とみなされ、文字通り「無意味なもの」という形で、我々の意味世界から放逐されがちです。

裏返して言えば、ものを、ものそのものとしてではなく、「意味あるもの」として対象化 objectification することによって ―― つまり、ものを主体 subject にとっての対象 object へと限定することによって ――、従来のもの観には必然的に「主体」への過度の傾斜が存在していたのではないでしょうか。ものを見て、ものを問うているはずなのに、常にものを見る私のほうが問われてしまうという具合に、問いの焦点がものから主体へと反転してしまう逆説。

そのような「ものの対象化」の結果、「単なるもの」ないし、「もののもの性」自体を研究するという試みは、少なくとも従来の学問分野には存在しなかったように思えます。文字通り、「無意味」な試みにしか受け取られないのですから。しかし、そこで言われている「意味」とは、決してもの自体に内属しているわけではなく、それは我々がものへと付与するに過ぎません。実際には、我々はわずかなものにしか意味を付与せずに、多くのものを見過ごしてしまっているのではないでしょうか。

こうしたある種の「もの蔑視」とでも呼びうる状況の中、かつ、その一方で我々がものとの関わり抜きには生きられない状況の中、ものとは何だろうか、ものをものとして見た場合どのような視点が開かれるのだろうか、なぜものについて考えるのだろうか、ものにはどんな歴史があるのあろうか、、、といった問いを問うこと、それが「もの研」の基本的な姿勢の一つです。

■ ものの多元性

しかし、以下のような反論もあるかもしれません。「私たちの学問分野は、これまで物質的資料を対象としてきた」と。

確かに、考古学や美術史学、民俗学、社会学、人類学、工学、建築学、経済学など、様々な分野で、これまで「もの」は研究対象とされてきました。その意味で、「ものを扱う学問分野」は確かに存在していました。

ですが、いささか乱暴に語ることが許されるならば、それらの学問分野は、それぞれの独自の仕方で、「ものを、既存のある特定の一つのコンテクスト the context ―― ものを解釈するための意味の文脈、例えば社会的コンテクスト、経済的コンテクスト、芸術的コンテクスト、果ては唯物論的コンテクストまで ―― にのみ当てはめて解釈する傾向がありました。

つまり、それぞれの学問分野は、各々の研究対象たるものを特定の役割・機能に制限された「特殊なもの」に翻訳することを研究活動の前提としていたのではないでしょうか。前段の言葉を使えば、各分野ごとにものを選別し、選ばれた一部のもののみを各々の流儀で「意味あるもの」として対象化することではじめて、各学問は成立しているように思われます。

私たちRes: もの研究会では、そうした「ある特定の文脈への翻訳」という、いわば個々の学問が抱える「解釈病」とでもいうべき習性(もちろん、それが必要ではないとは言いませんが)を、諸学問との対話を通じて自覚的に見直してみたいと思うのです。即ち、コンテクストを取り外したり、特定のコンテクストに置かれてきたものを別のコンテクストへと置き直した場合、ものはどのように違って現れてくるのかを考えてみたいと思うのです。そうした試みは、「ものの多元性(正しくは、もの解釈の多元性)」へ向けての問いと呼ぶことができるでしょう。

ものは、必ずしも一つの方法論や一つのコンテクストの中でのみ論じられるべきではないはずです。そのためにこそ、ものを巡る諸パースペクティヴについて学際的に討論してみたいと考えています。これが、もの研の基本姿勢の一つだと思います。繰り返せば、「ものを共通の参照項とする対話を通じた自己反省」、それがものの多元性を問う根本的な目的です。

■ まとめ

このように、「もののもの性」へ向けての問いと、「ものの多元性」へ向けての問い、この二つがもの研の基本的な理念です。

なお、この理念以外に、もの研参加者が自分の学問分野の立場から各学問向けに記した appeal: もの研アピール を用意しています。そちらの方にも目を通していただければ幸いです。

△ page top