2003/05/10 第4回 Res: もの研究会

日常における「流用」の諸相
−考古学理論への応用に向けて−

発表者: 朽木 量

■ 便概

我々は様々なモノに取り巻かれながら生活しているが、そのモノは必ずしも本来的な使われ方をしているとは限らない。モノには使い手である個々人の生活上の知恵が暗黙的に働き、それが社会的に真似されることで広がり、「領有/流用 appropriation」されていく。こうした日常の様々な実際行為の中にこそモノは存在している。物質文化は多様であり、オーセンティックな使用法しか許されないような「閉じた体系」ではないのである。

フーコー、ブルデュー、セルトー、シャルチェ等によって設定された日常生活における人びとの実際行為(プラチック pratique)についての問題域を、物質文化研究に投じると、人びとがモノをいかに使ったのかという人とモノの関係性、モノの「文化的領有域」が見えてくる。そこで、人びとがモノを実際に使う過程を明確化するために、本来的な使用法から逸脱し「ズレ」た場合(「領有/流用」された場合)に注目すると、「転用」や図案の「折衷」、モノの組み合わせの「文化的交雑性」、新カテゴリーや新型式の生成という物質文化の実態、日常生活の実践者による意味創出の過程が見えてくる。

こうした問題設定と対象化によって、モノの使用を本来的な使用法に限定して捉える本質主義的で硬直化したこれまでの物質文化研究の欠点が顕在化するはずである。そこで、本発表では、日系移民の生活財や、「貧乏徳利」、「造もの」など日常における「流用」の諸相を検討する中で、物質文化研究の本質主義的な傾向性について問題提起をする。

■ 主要文献一覧

  • 太田好信 1998, 『トランスポジションの思想』, 世界思想社
  • 岡本信也・岡本靖子 1993, 『超日常観察記』, 情報センター出版局
  • 朽木 量 1999, 「日系移民の「移動」に伴う物質文化の変容−ニューカレドニア移民と移民母村の墓標調査から」『旅の文化研究所研究報告』8
  • 朽木 量 2000, 「生活財からみたニューカレドニア日系移民の暮らし−モノの保有状況とそのパターン」『メタ・アーケオロジー』2
  • 朽木 量 2001, 「物質文化研究における『領有/流用』概念の展開−墓標形態・図案にみる折衷・転用−」『メタ・アーケオロジー』3
  • 関口広次 1991, 「徳利たんぽ考」『陶説』454
  • シャルチェ, R. 1992, 「近世フランスにおける書物市場と読書行為」『思想』1992年2月号
  • セルトー, M. d. 1987, 『日常的実践のポイエティーク』(山田登世子 訳), 国文社
  • 棚橋 訓 2001, 「Appropriationの系譜−研究動向をめぐる若干の覚書」『メタ・アーケオロジー』3
  • 中村和恵 1997, 「聖なるコピーライト、俗なるコピーライト−先住民文化、特にアボリジナル絵画とその『アプロプリエーション』に関する覚書」『ユリイカ』29(10)
  • フーコー, M. 1977, 『監獄の誕生』(田村 俶 訳), 新曜社
  • ブルデュー, P. 1990, 『ディスタンクシオン』I・II(石井洋二郎 訳), 藤原書店
  • Pannell, Sandra 1994, "Mado and Museum: The Indigenous (Re)Appropriation of Indigenous Things" Oceania 65-1
  • Thomas, Nicholas 2001, "Appropriation/ Appreciation: Settler Modernism in Australia and New Zealand" The Empire of Things: Regimes of Value and Material Culture (ed. by Fred R. Myers), School of American Research Press, U.S.

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