The Camera Eye T
秋がきて、秋が逝く。
ヴエルレエヌの「秋の唄」がよぎる。
「秋のヴィオロンの節ながき啜泣き(すすりなき)
もの憂きかなしみに、わが魂を痛ましむ。
時の鐘鳴りも出づれば、せつなくも胸せまり、思い出づるわが来し方に涙は湧く。
落葉ならぬ身をばやる、われもかなたこなた、吹きまくれ、逆風よ」
The Camera Eye U
加茂へ来て3年になる。
その3年目の秋を迎えるのだ。
そして秋が逝く。
Chah 子姫がやまいを得てその姿を会社へ見せないことも寂しいことのひとつであり、
気さくな飲み仲間であったマエシウが哈爾賓の北風を感じているのも寂しいことのひとつだ。
短い白日夢のような3年の間に随分と人は変り「江戸は移る」
変ると言えばフジオさんは、松ヶ崎の大黒さんのほとりに愛妻を擁して蟄居ましまして
近頃はたまにしか顔を見せないし、Sアパ−ト時代の仲良しヤナガワ真一どの、また
アベックで植物園のほとりにHome Sweet Homeを奏で、大阪の仁、王吉氏居を鞍馬電車
沿線に移し、藤井滋司ボンは、やはり京の風物に懐古する雅趣すてがたく、蹌踉のゆうべ、
蹣跚のあした、是三寧坂・知恩院を逍遥し、N・しげるピッチヤ−は相変らず溌溂として、
咳一つする度毎にタイトルを一枚宛て産み落し、「評論」の先輩長江ウラナリ氏はいつの
間にか二階の椅子に板着いてF・F・Fと妖しげな笑い笑を残し、同じ仲間のブンラク松井は
クニへ帰って好きな酒も嗜めぬ病床にあり、カズさん石川氏とウ−さん宇川氏とは仲良く
テ−ブルを列べて、会社のダイヤグラムを編成するのに忙しいのである。
未だ敏坊、敏坊と騒がれた3年前のミス飯塚は、今日此頃の加茂を背負っているし、
モリオさんは裏のバス通りに洋品店を出した。
よき友、秀・アラキまた病いの床にあり、此頃日頃HANAYA
に盃乾せどいつかな心晴れぬ
*A坊なれば、今年の秋風いやが上に寒く、春夫ばりに身に沁みるのじゃアねえかと思う。
*(A坊→日夏英太郎)
The
Camera Eye V
一年・二年・三年前―というとかの有名な山中貞雄調ということになるが、三年て言葉ァ
感じの好い詞だ。
折も折、三年前郷(くに)を出て女讐(めがたき)さがす或る男の話を、僕書いた。
霧島次三郎である。
こいつはサンデ−毎日所載の宮崎の仁、白道人作の「辻斬ざんげ」というタイトルの
読物をアダプトしたものだが、シナリオを書くのも、一年ぶりである。
恰度去年の今頃、加茂で始めてのシナリオ「雲霞の兇敵」を書いた。
そして今年。幾分進歩していることが、何となく自分で判る。
衣笠氏が口癖のようにいう「君シナリオは六ケしいね」の言葉を、脚本書きながら
何となく行詰ったとき、ふっと思い出す。ペンをおいてそうした時は、糺の森の中を
半時間ほど歩く。
朱塗りの門が目に冴えて、いよゝ物倦い時間だった。
*二川氏(おやぢ)は非常にエネルギッシュに、近来にない努力を、この作品に傾倒している。
僕また拱手傍観出来ず、*好吉・うちでと共にこの仕事に大童である。
願わくば、大童的ものたれ。
*二川文太郎(1899-1966)→映画監督・脚本家 代表作に「雄呂血」(無声映画)
*内出好吉(1911-1994)→映画監督 (日夏英太郎が親しかった友人)
The
Camera Eye X
「辻斬ざんげ」の場合―先づ霧島次三郎なる主人公の性格の解剖と、この人間を
いかに生々しく活かし得るかということが問題であり、ひいてはこのことがこの映画を
左右するものであり、また凡ゆる映画の成功と失敗の鍵はこゝに秘められているのである。
自分の趣味から言えば、僕はインテリゲンチャを扱いたい。そうした人間を描くのが
目的だ。ところがこの主人公の場合は、多角的な混淆したものの含み持つ魅力を
活かすことが肝甚なのである。
大久保大人と二川(おやぢ)さんとで、解剖した霧島次三郎の性格を、こゝにノオトして
見よう。
剣道の達人らしい自信をもつ。そのための放膽さ。(若者にありがちな大ざっぱ)
正反対のものに興味を持つ。兄貴ぶりたい気持とそのための落付き。(一方からはル−ズにも見ゆ)
心きまらば何事にも突貫する。諦め良し。犠牲心に富む。
背の高いことを幾分自負。随って自己より偉大なる人物には壓倒される。
理性的な感情家(悩みを持つ)気のつかぬ反面(男の通有性)極端にニヒリストたり得るセンチメンタリスト。
以上
The Camera Eye Y
「辻斬ざんげ」のKOHは、フレドリック・マアチ。
大内弘はクラ−ク・ゲ−ブル。この二人は在来の時代映画の人物でない近代人を
描いて見た。
そうでしょう?皆さん。
浩ちゃんのF・マアチ ― ちょいといゝじゃありませんか。
フレッシュマン大内弘― 彼は富士井左近の一役を以って華々しくデビュ−せんとする。
C・ゲ−ブルの「或夜の出来事」のあゝいった感じに、何処まで肉迫するか。
下加茂今秋の掘出し物であることは事実だ。
幸あれ、オオウチ!
Ep'logue:
There's a lamp shining bright in a Cabin,
In the window it's shining for me.
ことしの秋は、この唄「谷間の灯ともし頃」が流行った。
来年の秋は、さて、どんな唄が流行るかしら?
1934:10:7:朝
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