企業組織における電子的社会場
ー 探索的ケース・スタディを巡って ー
栗原宏文
Electronic Social Fields in a Japanese Corporation
- Around An Exploratory Case Study -
Hirofumi Kurihara

もくじ
         
         1 まえがき
         2 研究の背景
         3 電子フォーラムの描写
         4 電子会議試行メンバーからのフィードバック
         5 問題は何か?
         6 得られた知見
          6.1 共鳴効果
          6.2 知識やノウハウの伝承
          6.3 ディベィティング
          6.4 人数の適正サイズ
          6.5 電子会議はある意味で「氷山の一角」
          6.6 メンバーの二極分化
          6.7 電子会議イメージの多様性
          6.8 組織風土の影響
          6.9 組織革新への影響
          6.10 コミュニケータの役割
         7 まとめ

要旨

 日本の企業組織における電子的社会「場」の展望はどんなものになるであろうか? この小論で、一日本企業内での(有志からなる)小さなバーチャル・グループを対象として、タスクでなく社会「場」を志向して試みられた電子フォーラム(非同期的電子会議)の3年以上に渡る経験の分析を紹介する。電子会議試行メンバーからのフィードバックをもとに、何が問題か?を論じ、また本当のボトルネックを探求するために、これまで得られた知見を整理して、社外の有識者と意見交換できる素材を提供する。
 電子フォーラムは、いわゆる共鳴効果を発揮し、知識やノウハウの伝承を促進し、論理的ディベィティングの機会を増加し、特定の問題意識に関しては更に深い意見交換のトリガーとしての「共通の社会場」を提供した。一方、人数の適正サイズの確保、時間/リズム/境界の影響、メンバーの二極分化現象、電子会議イメージの多様性に起因する問題、組織風土の影響、コミュニケータの有無等の色々な挑戦に直面した。
 結論として、組織における電子フォーラムの役割は、電子メール/掲示板システムの役割とは全く次元の異なるものと認識すべきであること、前者は後者よりはるかに高度なコミュニケーション・スキルを必要とすること、そして「コンピュータを介した組織内コミュニケーション」を目指す研究は、タスクよりはむしろ社会「場」に向けられるとより実り多いように思われること、等が得られた。(本稿は1994年7月に国際会議で発表したもの[Kurihara94]を元に邦文化および加筆修正したものである)


1 まえがき
 企業組織における電子的コミュニケーションの経験やその組織活動への影響を論じた文献は色々ある[伊藤91, Sproull&Kiesler91, Perin91,飯田92,松本92,スプロウル91, Wilbur & Lubich92, Hallgren92, Lee93, 杉井94, 橋元94, Grudin94]。しかし、それらの殆どは(組織における)電子メール(もしくはせいぜい電子掲示板)レベルのコミュニケーションに限定されたものである。一方、電子フォーラム(もしくは非同期的電子会議、以後「電子会議」と略称する)のようなコミュニケーションは電子メールレベルのコミュニケーションに比べて格段に高度のコミュニケーション・スキルが要求される。
 更に、「日本企業における電子会議」に関する研究は殆どないか、もしくは発表されていないのが現状である。従って、そのような希少な経験から得られた知見を内外の学界に紹介して、この分野での異文化間コミュニケーションを促進させることが出来れば幸いである。
 Riceは、「コンピュータを介した組織内コミュニケーション研究の枠組みに関する包括的なリビュー」[Rice92]の中で、「コンピュータを介した組織内コミュニケーション研究の伝統的方法には、「革新の普及理論」を始めとする多様な(研究上の)枠組みが適用できる。しかし、問題は学際的なので、枠組みを選ぶのは容易ではない」と述べ、更に、「「研究の枠組み」で意味したいのは、仮説、モデル、フレームワーク等だけでなく、今までのコンピュータを介したコミュニケーション(CMC)研究から出て来た経験的知見の集合の中でこれからの研究の設計、誘導、解釈を示唆するようなもの全てである」と述べている。事実、適切な「研究の枠組み」もしくは「仮説の集合」を見つけるのは殆ど不可能であったので、慣習的ではないかも知れない方法で、この探索的ケース・スタディを叙べることとしたい。
 第2及び3節で研究対象としての電子フォーラムを紹介し、第4及び5節で電子フォーラムの現状と問題点を述べ、第6及び7節で得られた知見と結論を述べる。この小論は過去に発表したもの[栗原93]を改訂、拡張したものである。

2 研究の背景
 筆者はもともと石油精製会社でシステム工学、プロセス制御、OR、化学工学、プロセス解析等、主として「解析的な仕事や研究」に20年以上従事してきました。しかし7年位前から、グループ(もしくは組織)の知能の増幅に関する研究に関心が移りました。
 グループの知能の増幅に関する研究には色々なアプローチがあると思われます。グループウェア/CSCW研究やGDSS研究もそうでしょうが、KJ法やソフトシステムズアプローチとかのグループ思考支援方法論もそうです。またCMC( Computer Mediated Communication)、つまり「コンピュータを介したコミュニケーション」からのアプローチもあります。今回紹介する研究は上に挙げたCMCからのアプローチの一つとして位置づけられると思います。そして本研究の狙いは、組織内コミュニケーションを活性化させ、技術やノウハウの伝承と再利用を促進させるツールや方法を見つけ、それらの可能性と限界を把握することでありました。
 上記の狙いを達成するのに、現時点では最有力候補として、いわゆる「電子会議システム」を選択しました。それは電子メール・システムのグループ・バージョンと呼ばれることもあるように、通常の電子メールをグループで読み書き出来るように、蓄積と検索を可能にするようなデータベース機能を電子メール・システムに付加したものです。それは一見電子メール・システムと似ているように見えますが、後述するように、企業組織におけるその本質的な役割は全く異なるものと認識するべき、ということが本研究から得られた主要な結論の一つです。

3 電子フォーラムの描写
 筆者が関係あった会社、東燃は石油精製専業の企業です。そこに、1990年頃、1000台以上の端末を扱える集中型OAシステムがいくつかの部門に導入され、その機能の一つとして電子メール・システムが使えるようになりました。筆者は、研究の背景で述べたようにグループウェア等のツールの試行に関心があったので、早速、電子メール・システムを活用した電子会議システムの試行を計画しました。これは「採択者による革新技術の再発明」[Rogers86]の一種と見なすことができるかも知れません。
 電子フォーラムは電子メール・システムの高度有効活用を目的として、1991年の初頭に試行を開始しました。筆者の当初の意図は、職務や職場が離ればなれの若いシステム・エンジニアに自由な意見交換のための共通の「場」を提供することでした。提案した試行はハードウェアは勿論のことソフトウェアも含めて一切の追加的投資もしくは開発は不要でした。そうでなければ、このようにあいまいな目的の試みを実行することは通常は大変困難な筈です。 
 試行した電子会議システムの機能というのは、通常の電子メールをグループで読み書き出来るように、蓄積と検索を可能にするようなデータベース機能を電子メール・システムに付加したものだけでした。まず、電子会議への発言は、メールの形で筆者(事実上パソコン通信/BBSでのいわゆるシスオペに似た役割を果たすことになった)に送られてきます。電子メールのメッセージは、検索のためのキーワード等と共に、筆者自身が手動で随時、データベースに入れました。電子会議での発言を見るには、データベースにアクセスして見る訳です。しかし新しい発言があるかどうかがアクセスして始めて分かるのでは非効率的なので、発言が寄せられた時点もしくは、データベースに入れた時点で、主要な、もしくは意見等を期待できそうな、メンバーにはメールで知らせることも必要でした。それゆえ、この電子会議の最大の特徴は、電子メールでのやり取りとの親和性が大変高い、別な言葉でいうと、やり取りされるメッセージだけ見ると両者の区別がつけにくいシステムと言えます。これは長所でもあり、短所でもあることが、後述するように、後で判明しました。
 3ケ所のオフィスと3ケ所の製油所におけるシステム関連部門の中から、老若を問わず、単に好奇心からという人も含めて、電子会議試行に関心あるボランティアを募ると共に、管理層の人々に電子会議に参加するよう呼びかけました。後に、参加メンバー自身が自分の部下や同僚に参加を促したりもしました。参加した人の殆どは、端末をほぼ個人用に使用できる環境にありました。電子会議に参加登録された人数は初めは20人足らずでしたが、一年以内に40人程にまで増加しました。それでもこの人数は会社全体の数%に過ぎませんでした。端末の不足の問題もありましたが、話し合いたい共通の関心分野が限られていたからでした。
 話し合いたいトピックスは募集もしましたが、多くは筆者自身で提案したものでした。トピックスの数は当初10足らずでしたが、一年以内に30以上に増加しました。トピックスは、電子フォーラム自身の是非、電子会議の活用改善に関する論議から、単なる技術的情報交換、討議したいテーマや研究したいテーマに関する論議、果てはホットな技術的な懸案問題の論議まで、かなり広い範囲をカバーしていました。表1に典型的なトピックスの例を幾つか示しています。新しいメッセージが現われる頻度は平均して1日当たり1ないし2件、つまり年に300-400件程度でした。
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表1 電子フォーラムでの典型的なトピックスの例

・電子会議自身の有効活用
・情報・コンピュータ・リテラシー
・グループウェア  
・技術情報の共有について
・エキスパート・システムとAI
・システム分野での研究開発
・マルチメディアとハイパーメディア
・オブジェクト指向パラダイム
・プログラマーとシステムアナリスト
・ユーザ指向のシステム設計
・製油所におけるシステム応用技術
・プロセス制御技術一般
・最適化制御技術
・製油所におけるスケジューリング手法  
・技術会議
・トレーニングと教育、育成、
・学界活動
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4 電子会議試行メンバーからのフィードバック
 色々な試行錯誤を重ねながら、約1年程経過した時点で、1990年12月に電子フォーラムへのアクセス頻度に関するアンケート調査を行いました。総数40人の内、20人程度が定常的にアクセスしていることが分かりました。頻度高くアクセスし、意見等を提供しているのは、その内、10人位でした。その時のアンケートに、また随時、電子会議活動そのものの評価に関する意見を歓迎したり、また是非フィードバックをお願いしたりしました。表2に寄せられた典型的な意見の例を幾つか示しています。電子会議を評価する意見から、懐疑的な意見までの広い「意見のスペクトル分布」が得られました。

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表2 電子フォーラムに寄せられた典型的な意見の例

・電子会議を楽しんでいます、仕事に関係あるトピックスでも、それ以外でも
・今の簡単なツールでも、なかなか良い結果が出ている
・今のツールでも特に不都合を感じない
・不特定の人々間のコミュニケーション手段としては、比較的新しいツールだ
・実際の会議の後のフォローセッションとして役立つ
・自分はROM(リードオンリーメンバー)だが、そんな隠れユーザも忘れないで
・アクセス頻度は新しいメッセージが寄せられる頻度に関係している
・若い世代がどんなトピックスに関心あるのかを知ることは刺激になる
・情報の公開性と機密性のバランスはこれからの電子会議の大きな問題点となろう
・技術的な話と管理的な話の混在は避けられないので、このことは電子会議の有効活用を阻む大きな要因になるだろう
・テーマにより、電子会議と対面会議と旨く選択するべき
・テキストベースのコミュニケーションは若い世代にとって魅力が少ないのでは?
・電子会議は当初の情熱的期間の後は参加者の関心を失いつつあるようだ、しばらく様子を見て、また盛り上がる日を待つべき
・ある水準以下の意義の低いメッセージはデータベースに入れない方が良い
・電子会議は後から参加した者にとって(過去の発言が読みずらく)あまり親切(なシステム)ではない
・電子会議での議論についていくのが困難
・意見をテキストの形で表現するのが得意でないので、電話等の口答の方が好き
・今のシステムでは、関心あるトピックスに到達するのに、手間がかかり過ぎ
・ユーザ・インタフェースが貧弱なので、読み出しずらい
・フォーマルな仕事とボランタリーな活動の境界が曖昧になっていくのは気掛かり
・意見を言ったり応答したりする時間のない人にアンフェアな可能性がある
・なにしろ忙しくて電子会議にアクセスする余裕はない
・いくつかのトピックスはもっと狭い限定されたグループ内で討議されるべき
・電子会議に興味あるトピックスがない
・電子会議というものにある種の抵抗を感じる
・電子会議をどうしても生理的に好きになれない
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5 問題は何か?
メンバーからのフィードバックを元に「利用と満足度」を調べ、この「電子会議」自体の評価を行いました。殆どのフィードバックは電子会議をある程度評価する意見が多かったので、電子会議の効用に関しては、手応えはあったと思われました。しかし懐疑的意見や問題点も多く寄せられたのも事実であり、このことは事前にあまり予想していなかったので、色々考えさせられ、これからもっと研究しなければいけない課題が沢山あるということが認識されました。実際、筆者の研究意欲はこの時点で沸き起こりました。この電子フォーラムの評価は予想以上に長い期間が必要だということが直ぐ直感されました。そして電子フォーラムは継続する価値は確かにあるが、一方、本当のボトルネックはもっと深く解析しなければならないとの結論が得られました。 
 電子会議に代表されるような、こうしたタイプのコミュニケーションの普及には、色々な問題がありうると思われるが、本当のボトルネックは何だろうか? 筆者の当初の気掛かりは次のようなものでした。
(1) ボトルネックはツールか?
(2) ボトルネックは電子フォーラムの運営ノウハウか?
(3) ボトルネックは使う人の性向もしくは情報リテラシーか?
(4) ボトルネックは組織環境か?
上記の4種のボトルネック候補の内、どれが最も致命的なボトルネックだろうか? これに答えるには、まずこれまで得られた知見を整理してみて、社外の有識者と意見交換できるようにすることが先決と思われた。

6 得られた知見
 得られた知見およびそれに関する考察を意識に上った順(共鳴効果、知識やノウハウの伝承、ディベィティング、人数の適正サイズ、電子会議はある意味で「氷山の一角」、メンバーの二極分化、電子会議イメージの多様性、組織風土の影響、組織革新への影響、コミュニケータの役割)に従って一つづつ述べる。

6.1 共鳴効果
電子会議の効用の一つに挙げても良いと思われるが、いわゆる「共鳴効果」というような現象は確かにいくつか存在した。メンバーの間で、日頃あまり論議されない、されにくいような問題が、見つけられたり、また過去に埋没したような問題の再発見が促進されたようである。特に、距離が離れて意見交換する機会が少ないメンバー同士の間で(お互いにまだ会ったり、話したりしたことがなくても)そうであった。こうした共鳴効果の存在は、メンバー間の協調関係を成立させるのに役立ったと思われる。M.Schrage[Schrage90]が「協調関係は個々の創造性を増幅する」と主張しているが、実際、協調関係の果たす役割は電子会議活動にとって致命的なほど重要なものであった。
 事実、この共鳴効果を求めそしてそれを楽しみ、それからメリットを得ていたと推定できるメンバーが何人かいた。会津[会津91]も「人間の知能を活性化するには、予見できる活動の中ではなかなか刺激を受けにくいので、他人と共鳴できるような『構造化されない共通「場」』を持つことが必要」と主張している。実際、電子会議は組織内のコミュニケーションを活性化するのにある程度効果的であった。また、この共鳴効果は他人との間だけでなく、自からの過去の発言等を読み返した時等には、その人の過去の考えとの間に
も起こり得る。 Johnson-Lenz[Coara92]は、「電子会議は(早めにそして深く)自省す
る時間(という機会)を提供してくれる」と主張して、このことを「時間という薬」効果と呼んでいる。

6.2 知識やノウハウの伝承
M.Schrage[Schrage90]が強調するように、また多くの人が経験するように、他人に考えや微妙な意味合いを伝えることは決して容易なことではない。久保木[Coara92]は彼の思い(考えのエッセンス)を伝えるためには、文字でも図形でもない何か中間言語のようなものが欲しいとまで言っている。実際、重要な情報の殆どは公式な形でというよりはインフォーマルな会話の中にあることが多い。電子会議によって、メンバー間のインフォーマルな情報という形での知識や経験が伝達される機会が増加した。これは特に年齢もしくは組織での経験年数がかけ離れているメンバー間でそうであった。
 組織における情報共有を促進するには、情報を提供する費用もしくはそれへの障壁を最小化することが肝心である。そうしないと、Grudin[Grudin94]がいうようにいわゆる「囚人のジレンマ的状況」に陥り、皆がフリーライダーとなろうとする可能性が高い。メンバー間の協調関係はそのような事態を避けるためにも肝要である。タスク志向のグループウェアが組織になかなか受け入れられないという問題に直面しているのは、「コンピュータを介した組織内コミュニケーション」はタスクを志向するよりも社会場を志向する方が、より実り多いことを示唆しているのではないだろうか。
 この知識やノウハウの伝承は、電子会議の中の発言を討議録の形でまとめて置けば一層利用しやすいことが分かった。そうすれば討議に参加したメンバーが再利用できるだけでなく、討議に参加できなかったメンバーやメンバー外の人にも利用できるからである。ただ、そうした形で自分の発言が印刷されて回覧されたり、更にはデータベースに不必要に長く保存されることを好まないメンバーもいたが、これは 6.7 で述べるように、各人が持っている「電子会議のイメージの多様性」に関係する問題であるように思われた。

6.3 ディベィティング
 電子会議においては論理的討議の機会というか、少なくともそのことを否応なく訓練させられる機会が増します。相手の言葉、自分の言葉、が文字になっているのですから、何度も読み返し、自分の主張点をより明確に表現することが可能だからです。実際は色々な、感情的、もしくは誤解に基づくコミュニケーション上のトラブルもいくつか発生しましたが、それらに遭遇し、解決していくという経験から学ぶことにより、徐々にコミュニケーション・スキルが全般的に向上してきたと思われる。特に電子会議では、後で自分の発言を読み返すことにより、自分のコミュニケーション・スタイルを観察する機会はいくらでもあります。伊藤[伊藤91]が強調しているように、電子会議は各人のコミュニケーション・スキルの向上にも多少効果があると実感できました。事実、花王の橋山氏[会津91]は、この電子会議によるディベィティングをいわゆる「情報リテラシー」教育の教科科目の一つとして重要視しておられます。

6.4 人数の適正サイズ
伊藤[伊藤91]や石井、尾野[Coara92]等によると、どんな電子的社会「場」もグループ
ウェアも、旨く機能するには、ある適切な人数(クリティカル・マス)以上の人達に受け入れられることが本質的に重要であるとのことである。それは八戸[八戸92]がいうように、電子会議では比較的共通する話題が絶えないことが必須であるからである。実際、もし人数が少な過ぎると、魅力ある話題を拾い上げようにも、それがいつか枯渇してしまう時が早く来ることが予想される。試行した電子会議では、1年位経過してから話題が急速に下火になったのは、この適正人数に多少及ばなかったからかも知れない。他に考えられるのは、Johnson-Lenz[Coara92]が主張しているように、電子会議には適当に「燃え上がった後は暫く休息する」という意味での「適切なリズム」が必要なのか、「常に外部からの刺激を受け入れる」という意味での「新規参入を容易にする、つまりグループの境界のオープン化」が必要だったということなのかも知れない。実際、電子フォーラムにはそのようなリズムが存在したし、新しく参加したメンバーによって、蘇生させられたこともしばしばであった。それでも時の流れには勝てず、新しいメッセージの到着頻度は年当たり500件から一年後には300件というように低下して行った。

6.5 電子会議はある意味で「氷山の一角」
 電子会議は、ある特定のメンバー同士の間における特定のテーマに関するより深い情報交換のトリガーを提供する「共通の出会いの『場』」としての役割を果たすことがある。実際、電子会議でお互いの関心事が判明したら、電子会議という不特定多数がアクセスできる「場」よりも、もっと閉鎖的ではあるが深く情報交換ができる場が欲しくなり、それは通常、電子メールでやり取りされることになる。そして、電子会議での公開論議より、より本質的な、そしてより活発な論議に発展することが少なくない。つまり電子会議では、「氷山の一角」のように、ある意味で表面的な記事の羅列に推移しがちであるが、その実、氷山の海面下では、その何倍もの興味深い話が進行しているということも大いにありうる。こういう傾向は、オープンな電子会議の推進者としては、痛しかゆしであるが、できるだけ共通の場でやり取りして貰うように勧めている。それにしてもそうした深い情報交換のトリガーを提供する「共通の出会いの『場』」としての電子会議の役割が存在するのも事実である。これも 6.7 で述べるような、各人が持っている「電子会議のイメージの多様性」に関係する問題であるように思われる。

6.6 メンバーの二極分化
 電子会議への登録者は「利用して満足する人」と「そうでない人」に2極分化する。「そうでない人」は電子会議に無関心な人と多忙な人を含んでいるが、更に電子会議に違和感を感じる人も含んでいる。明らかに、試行した電子会議は、これらの大勢の「そうでない人」の期待を満足させることに失敗した。このことは、八戸[八戸92]が「大多数の人は、それが有効と判明されるまで、どんな新しい試みにも抵抗する傾向がある」と指摘したことを裏付けているかも知れないし、尾野[Coara92]が「電子会議等では発言の得意な人等による一方的な意見が公平さを損なう可能性がある」と指摘したように、電子会議自体が持つ必然的な弱点の結果かも知れない。更に、伊藤[伊藤91]、川浦[川浦91]やJohansen[Coara92]が示唆しているように、ある意味で、(価値観が異なる人の間、もしくは異文化間等の)広義の「コミュニケーション問題」と関係があるのかも知れないし、伊藤[伊藤91]が示唆するような「心理学的な防衛機制、もしくは情報障壁問題」とも関係があるかも知れない。

6.7 電子会議イメージの多様性
 率直に言って、電子会議に対して各人は各様のイメージを抱いていることが分かった。そして、もし試行している電子会議が自分のイメージに合致しないと参加したくなくなるということも良く分かる話である。この望ましい電子会議のイメージというのは、その人の組織観や価値観に関係があるようだ。事実、筆者に送られて来た電子メールをデータベースに入れて良いかどうかの判断は、それが自明な場合は別として、大変微妙な問題を孕んでいた。電子会議向けかどうかの意志を確認するためのやり取り、データベースに入れてしまった発言を削除すべきかどうかの(メールでの)やり取りは、こうした電子メールとの区別がつけにくい電子会議では避け難いことでもあったが、そうしたやり取りを通じて各人の電子会議のイメージ、組織観や価値観が段々見えて来るという利点もあった。不特定多数を対象としないで、限られたメンバーだけでの閉鎖的電子会議を希望する人もいたが、システムがそれほど柔軟でなかったことと、複数の電子会議イメージに対応できるような試行側の余裕もなかった。
 ある人は、微妙な話題の時は、電子メールや電子会議のように文字が残るメディアよ
り、文字が残らない電話の方がセキュリティ上ベターと主張する人も居た。またある人達は自分の意見が表面的にもしくは断片的に他人に誤解されることを人一倍懸念していた。しかし、Schrage[Schrage90]が主張するように、「ある新しい考え方を全く(誤解される等の)リスクなしに表現することは一般に不可能であろう」し、そのようなリスクを敢えて取ることによって始めて人々の間の新しい関係を生み出すということもあるであろう。「匿名性」を活用すれば「慎重な人」に発言を促す効果があること想定できるので試みてみたが、無責任な発言が横行する可能性を懸念する人もいたりして、一般に受け入れられるに至っていない。

6.8 組織風土の影響
 所属する組織の開放性や新しいリスクに対する態度等はこの種の組織内コミュニケー
ション・インフラの活用に大きな影響を及ぼします。川辺[Coara92]は「電子的社会場に
ボランタリーと開放性は必須である、どんな異端者も除外するべきでない」と主張している。事実、電子会議試行にボランタリーに有志として参加して貰うことは必要だったし、かなりの期間にわたってある程度のボランタリー的参加が得られたことは、所属していた組織、もしくは当該部門がそうしたことを許容できるほどの比較的開放的な風土を保持していたことの証左かも知れない。
 Perin [Perin91]は、「産業組織活動においては管理者は、電子的社会「場」は影的存在、つまり場所的そして時間的制約を越えて、組織の規律と管理を越えるものと認識される。目に見えない電子的やり取りは、公然と服従を拒否する徴候と見られる。」と述べ、欧米の組織における電子的社会場が直面する問題は彼等の組織原理(官僚制)との矛盾・葛藤の克服であると結論つけている。その分析は鋭く日本の組織にも少なからず当てはまる。しかし、同時に、「技術の普及と適応は社会的、文化的ダイナミックスに依存するので、これらの現実は、技術よりも重要な決定要因である」と述べているように、日本の組織における電子的社会場が直面する主要な挑戦は、彼等のとは全く異なり、自由に意見を表明する態度の基礎とも言うべき「個人の組織への埋没性の克服」であるように思われる。つまり、いかにして「個」の確立に基づいた異文化コミュニケーション能力・対話的理性を獲得するか、である。その意味で日本における組織内CMC(コンピュータを介したコミュニケーション)の課題は、欧米のようなタスク志向のものではなく、社会「場」志向つまり情報創造志向のものであるべきであろう。このように欧米と日本における電子的社会場の課題はお互いに補完関係にあるので今後両文化圏間での協同研究が望まれる。
 
6.9 組織革新への影響
 Sproull & Kiesler[Sproull&Kiesler91]は「電子コミュニケーション革命の意義は30年前のメインフレーム革命、10年前のPC革命より大きくなると思う、なぜならそれは人がコミュニケーションするかどうか、どうコミュニケーションするかに影響する、つまりコミュニケーションは人同士の、そして色々な活動との関係性を規定するから」と主張している。電子的社会場のような新しいコミュニケーション・インフラが「組織の心景もしくは風土」の変革になんらかの影響を及ぼすようになる時代が来ることは十分ありうることであろう。例えば、電子会議の最大の特徴である「知識やノウハウの共有」は、階層組織における情報の流通に関する硬直性をある程度補うような適度のネットワーク性をもたらすかも知れない。 
 しかしながら、電子会議の長所、短所にまだ十分馴染んでいない人も多いし、電子会議の開放性やそのホロン的特性の問題点を懸念する人が多いのも事実である。そういう意味で、趙[Coara92]が「グループウェアの普及を成功させる秘訣は『管理性とボランタリー性の調和』である」と主張しているように、電子会議を有効活用する鍵は、フォーマル性とインフォーマル性のバランスが鍵ということになるであろう。

6.10 コミュニケータの役割
 伊藤[伊藤91]は「とかく人は、他人から影響を受けることを好まないし、また他人に影響を与えることも好まない、という傾向がある」と指摘している。だからこそ、伊藤[伊藤91]や八戸[八戸92]も主張しているように、電子会議で話題を提供したり、他のメンバーにコミュニケーションを促す、いわゆるコミュニケータの役割も肝要である。事実、そのようなコミュニケータの情熱や使命感無しにはこのような電子会議の試行活動を始めることすら不可能であった。

9 まとめ
 以下は、コンピュータを介した組織内コミュニケーション研究に関心あり、その真の意義を共有する人々への筆者からのメッセージである。
 電子フォーラムは、いわゆる共鳴効果を発揮し、知識やノウハウの伝承を促進し、論理的ディベィティングの機会を増加し、特定の問題意識に関しては更に深い意見交換のトリガーとしての「共通の社会場」を提供した。
 一方、電子フォーラムは、人数の適正サイズの確保、時間/リズム/境界の影響、メンバーの二極分化現象、電子会議イメージの多様性に起因する問題、組織風土の影響、コミュニケータの有無等の色々な挑戦に直面した。
 電子フォーラムが組織に認知され受容されるには、幾つかの潜在的ボトルネックが存在する。これらのボトルネックはツールやフォーラム運営ノウハウやリテラシーの問題だけでなく組織風土等の環境要因も関係する。故に電子フォーラムの評価には予想以上に長い期間が必要になる。
 組織における電子フォーラムの役割は、電子メール/掲示板システムの役割とは全く次元の異なるものと認識すべきであること、前者は後者よりはるかに高度なコミュニケーション・スキルを必要とすること、そして「コンピュータを介した組織内コミュニケーション」を目指す研究は、タスクよりはむしろ社会「場」に向けられるとより実り多いように思われる。

謝辞
 この電子会議試行にかかわった方々のボランタリー精神、協調と忍耐、そしてご批判に心から感謝致します。電子フォーラム試行を開始して1年程して得られた知見[Kurihara92,栗原93] を発表してより社内の同僚や社外の友人、研究者から数多くの感想や意見を頂きました。それらの多くはこの研究を勇気付け、また多大の影響を及ぼしたものでした。ここに深く感謝の意を表します。

参考文献
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