メディアの流す情報を批判的に読み取る「メディアリテラシー」が学問的に認知されて久しいが、愛媛大法文学部の栗原宏文教授(65)はユニークな授業を展開している。歴史教科書問題をテーマに取り上げ、疑う矛先をメディアだけでなく戦後教育にも向けているのだ。教科書問題に顕著に現れる「洗脳」を解く試みは、教育関係者にも一石を投じそうだ。(小田博士) 批判力養成 市民向けのメディア・リテラシー公開講座で話す栗原教授=松山市の愛媛大 学生「政府の都合で情報操作するのは許せない」 栗原教授「情報操作は政府だけとは限らない。マスコミもする」 学生「たとえうそであろうと気付かなければ簡単に踊らされてしまう。メディアが及ぼす影響は想像以上に大きいと分かって恐ろしくなった」 栗原教授「そもそも教育は洗脳と切り離せない。特に戦後教育はそうだ」 学生「『やらせ番組』も情報操作の一部だと思う」 栗原教授「メディアが都合の良いニュースのみ取り上げたり、都合の悪いニュースは取り上げないのも情報操作の一種だ」 湾岸戦争での情報操作などを特集したテレビ番組を見た際、栗原教授と学生との間で繰り広げられたやり取りの一部だ。 こんな授業を重ねるうちに、学生の大半は、無意識のうちにうのみにしてきた「マスコミや教育は中立公正で真実」との先入観から解き放たれ、自分自身の力で批判的に物事を見るようになっていくという。 寡占の弊害 栗原教授の授業は歴史教科書問題も俎上に上げ、期末リポートの課題に課したり、授業の中心命題に据えたりしている。 《教科書採択に関する報道は異常そのもの。改革がまったく進んでいないのが、実質的寡占状態にあぐらをかいているマスコミ》《五十人足らずの集会なのに地元紙や地元テレビは県民への印象付けを行う》…。 「組織コミュニケーション論」の教材にはこんなことが記されている。今年度は自著『歴史洗脳を解く! ネット授業で大学生はどう変わったか』への感想も授業に取り入れ、内容はさらに厚みを増している。 教員の一方的な講義を学生がノートにまとめるだけの授業が多い中で、栗原教授の授業では、教員と学生、学生同士の双方向的なコミュニケーションを重視しようと電子掲示板をフル活用。学生自身に文章表現力を身に付けさせる訓練としても役立てている。授業ではプロジェクターを使い、宿題は電子掲示板で提示。テレビの討論番組などを踏まえ、学生同士に侃侃諤諤(かんかんがくがく)の意見を交わさせる。 学生からは「読んでもいない教科書の批判をしている先生は疑問を感じたりしないのか」「高校までの歴史教育で洗脳されていた」などと、これまでの教育の偏りに気付く意見が大勢を占めるという。 公開講座も 栗原教授は元々は東大工学部卒。マサチューセッツ工科大に留学して博士号を取得し、石油会社勤務を経て現職についた「理系畑」だ。 当初はインターネットが社会に及ぼす影響などを主題としていたが、新しい歴史教科書をつくる会のメンバーらが執筆した扶桑社の教科書が最初の検定に合格した平成十三年にテレビの討論番組を見て関心を持つようになり、扶桑社版を採択した愛媛県教委へのメディアのバッシングが高まるにつれ研究を深めるようになった。 「愛媛県は地元紙が偏向しているし、私の勤める大学も経済系はマルクス経済学を学んだ人が多い。報道と教育の両方が洗脳している。洗脳されてきた現状を分かることは『教育リテラシー』にもつながる」 七月には愛媛大で初めて、一般市民対象のメディアリテラシーの公開講座を開催。九月には筑波大でも講演会を開いた。授業への理解は徐々に浸透しつつあるようだ。 今年度限りで愛媛大を退官する予定だが、「インターネットで研究結果の詳細を公開したい」と退職後にも意欲を燃やしている。
産経Webに掲載されている記事・写真の無断転載を禁じます。 著作権は産経新聞社に帰属します。 (産業経済新聞社・産經・サンケイ) 「著作権」「リンク」「個人情報の保護」について 産経有料電子サービス申し込み | 産経新聞購読申し込み (c) Copyright 2005 The Sankei Shimbun. All rights reserved.